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2015年10月19日

道教委による「校内におけるクリアファイルの配布等に関する調査について」(通知)と

「教職員の政治的行為の制限について」(通達)に対する道教組見解

                                                              全北海道教職員組合 執行委員長 川村 安浩

はじめに

道教委は、10月14日付で上記の通知・通達を、札幌市を除く全道立学校、公立小中学校、市町村立高校に発出しました。この問題は全国紙やネットニュースでも扱われ、道教組のホームページにもクリアファイル配布への疑問や批判的な意見が寄せられるなど、社会的に関心が高まっています。道教委による教職員への調査は、憲法で保障されている組合活動への介入ですが、新聞等の記事を読むだけでは問題の本質を理解できない教職員・道民も多くいるのではないかと考えています。

このような状況・経過を踏まえ、クリアファイルを作成・配布していない道教組としてもこの問題に対し見解を発表するに至りました。道議会での質問に端を発して発出された道教委の通知・通達に基づいた調査について問題点を指摘しなければならないと考えます。

経過

今回の「校内におけるクリアファイルの配布等に関する調査について」(通知)は、自民党・道議会議員の質問に端を発しています。自民党道議は、現職教員から「アベ政治を許さない」と印刷されたクリアファイルが組合所属の教師ばかりでなく所属していない教師の机にまで置かれていたとの報告を受け、その実態調査を求めました。道教委は9月1日から各教育局を通し全道立学校に聴き取り調査を行った結果、「石狩、渡島、上川、オホーツク、釧路管内の5校において、指摘のクリアファイルが置かれていた」との答弁を行いました。

自民党道議から、「再度、高校に限らず、すべての学校において調査をするべきだと思う」と問い詰められ道教委は、「あらためて全道立学校、市町村教育委員会に対し書面による調査を行っていく」と答弁し、今回の通知・通達(10月14日)を発出しました。

これに対し道高教組は10月15日、この調査が組合活動への不当な介入に当たり、教職員に密告を求めることになるため、道教委に対して調査の中止・撤回を求めました。

なお、道教委の調査報告は、11月2日までに各教育局へ提出することになっています。

道教委が「直ちに人事院規則に規定する政治的行為に当たるとは言えない」としながらも教職員調査を行うことは、憲法第21条(表現の自由)を否定し、第28条(団結権)に違反する恐れがある

道教委は、クリアファイルの配布・所持が、人事院規則で定める教員の政治的中立に違反する「恐れ」があるとして調査を強行しました。

道高教組が組合員に配布した今回の行為は、組合の日常活動の一環であり、組合の機関紙配布と同等の行為であり、しかも、組合員を対象として行ったものです。人事院規則で定める教員の政治的中立性に違反する恐れがある「配布」とは不特定多数に配ることであり、組合員が組合活動として組合員に渡すことについて何ら問題はないと考えます。

また、今回の通知文に「別記」において、「教員が○○政治打倒、○○政治反対、などの文言が印刷されたクリアファイルを職員室の自分の机の上に置いたり、校内で個人的に使用したりする行為は、直ちに人事院規則第6項に規定する政治的行為に当たるとは言えない」と道教委自ら記載しているのです。道高教組が各分会でクリアファイルを渡すこと、個人的に使うことは法的に何ら問題がないと考えます。

にもかかわらず、調査を実施しようとしていることは、憲法第21条(表現の自由)を否定し、第28条(団結権)に違反する恐れがあります。

自民党道議、道教委こそ、「教職員の政治的行為」の問題は「憲法を基準」に判断・理解すべき

「教職員の政治的行為の制限について」(通達)では、「公務員は全体の奉仕者であって、その政治的中立性を確保するとともに、(中略)特に、教育公務員については、教育の政治的中立性の原則に基づき、特定の政党の支持又は反対のために政治的活動をすることは禁止され、併せて、教育公務員特例法により適用となる、国家公務員法及びこれの基づく人事院規則により特定の政治的行為に一定の制限がされています。こうした中、法令等に違反するおそれのある行為が道立高等学校内で行われていたとの情報が寄せられました。(略)」「今回特に注意すべきものについて、その具体例を別記に記載したので、その趣旨・内容についてすべての所属職員に周知し、(中略)職員に指導を徹底し、服務規律の確保に万全を期してください」となっています。

この通達で記載している人事院規則第6項「政治的行為」にあたる「配布」には、これまで組合員が組合活動として組合員に渡すことは何ら問題にされてきませんでした。それを「政治的行為」の「配布」と判断することは、明らかに組合活動への介入であり、憲法第28条(団結権)に違反する不当労働行為といえます。組合機関紙に書かれる「政権批判の記事」まで制限することと同様であり、組合活動を否定することになります。自民党道議、道教委こそ、教職員の政治的行為については、「憲法を基準」に判断・理解すべきであり、その運用も検討すべきではないでしょうか。

 

調査方法は、学校現場に「密告」と「相互監視」をもたらすもの

今回の通知・通達が教職員組合の日常活動への介入にあたり、調査方法が「配布しているところを見たことがあるか」「置かれている、放置されている、職員が使用しているところを見たことがあるか」としており、「密告」「相互監視」を奨励するものです。この調査方法は2010年に全道で行われた「服務規律調査」の方法と同様であり、子どもたちに民主主義や平和を教える学校現場にとって相応しくありません。さらには、教職員の協力協働が壊される恐れがあり、職場への混乱を持ち込むことになります。このような状況・経過を踏まえると、道議会自民党の圧力による道教委の通知・通達は、当然撤回されるべきものと考えます。

 

さいごに

来年夏に予定されている参議院選挙からは、新たに18歳以上の有権者が参加します。それに向けて教職員の政治的行為に規制や罰則を検討している自民党の動きに私たちは注視しています。道教組は、憲法をないがしろにするような教職員への攻撃に対し、学校こそ憲法がいきるようとりくむことを表明します。