- 道教組の取り組み
- 2020年5月7日
「審議のまとめ」パブコメを送るためのワンポイント
6月14日から28日までの2週間、文部科学省は「中教審『質の高い教師の確保特別部会』」がまとめた「『令和の日本型学校教育』を担う質の高い教師の確保のための環境整備に関する総合的な方策について(審議のまとめ)」に対するパブリックコメントを募集しています。
ここでは、パブリックコメントが「章ごと」に意見をもとめていることから、各章のポイントを簡単にまとめます。
第1章 我が国の学校教育と教師を取り巻く環境の現状

第1章では、日本の学校教育制度の歴史や、今日的な教育課題、さらに教師を取り巻く環境の変化についてまとめられています。
7ページでは、保護者や地域からの学校や教師に対する期待が高まっていることを根拠として、現在の教師の取り巻く環境は「非常に厳しい」としています。
中教審「審議のまとめ」で指摘されているように、学校の教職員が置かれている状況の背景には様々な要因があります。「審議のまとめ」ではこのことを「子どもの課題が複雑化・深刻化、保護者の期待が高まっている」としていて、文部科学大臣は「情報化の流れ、時代や環境の変化」を挙げています。

「審議のまとめ」では、こうして文部科学省による施策による影響を全く論じることなく、自然発生的に学校は大変になっているという理解に留まっています。いま、学校は学力向上施策や教育不足の問題、資質・能力を育む学習指導要領が子どもたちを疲れさせている現状など、施策による影響を大きく受けています。こうした事実に向き合わない現状認識には大きな問題があります。
第2章 教師を取り巻く環境整備の基本的な考え方
第2章では 教員採用 や 研修に関すること 、 教師を取り巻く環境の整備 についてまとめられています。第3章で大きく扱われる働き方改革にも共通していることとして、
「学校現場においても、学校の判断により実行できる改善の取組を重ねることで、多くの教師が「変わってきた」「自ら変えることができた」という実感を持つことができるようにしていくことが重要である
14ページ
とまとめています。

一方で、2022年に全教が実施した勤務実態調査の結果にもあるように、「日常の仕事の中で減らしたいこと」について先生方に聞いたアンケートでは、「教育委員会による調査物への対応」が挙げられています。市町村・都道府県の教育委員会による独自のものがある一方で、文部科学省がリードをしている調査物があることは否めません。こうした部分を改善することなしに、「学校が自らがんばるのだ」としている「審議のまとめ」は、現場に寄り添っているとはいえません。
第3章 学校における働き方改革の更なる加速化
第3章では主に「働き方改革」について触れられています。「審議のまとめ」の大きな問題として、①現状認識の甘さ、②学校(管理職)にすべて押し付けようとする というふたつがあります。
いわゆる「時間外在校等時間」については、上限指針(1か月で45時間以内、1年間で360時間以内)が制定されていることを受けての現状認識として、令和4年度に実施した勤務実態調査を論拠にしています。「年間を通して推計した教諭の月当たりの平均の時間外在校等時間」をまとめ、小学校で約41時間、中学校で約58時間としています。
令和4年度勤務実態調査は対象者を8月・10月・11月の3グループに分けて実施されました。当時8月調査にあたった人たちからは「年休ばかりになる8月にどうして調査するんだろう」という声が聞かれました。

今回の「審議のまとめ」で扱われている数字は、この3つの月を基礎資料として1年間に平均化して推計したものになります。
2022年に全教が独自に実施した勤務実態調査では、持ち帰り仕事まで含めて計算をしていて、その平均は「月92時間」というリアルな数値としてまとめられています。
こうしてみてみると、「審議のまとめ」で扱われている数値は現実的ではないと言わなければなりません。
「審議のまとめ」では管理職によるマネジメントの推進を大きく掲げています。また、勤務間インターバルを確保することにも触れています。
その際に
「本来、業務の持ち帰りは行わないことが原則であり、上限時間を遵守することのみを目的として自宅等に持ち帰って業務を行う時間が増加することは、厳に慎まなければならない」
30ページ

としており、学校現場における管理職による勤務時間の管理が強く進んでしまうことが考えられます。
これまでも「定時退勤日だから早く帰ってください。時間なので学校を閉めます」といわれて、泣く泣く仕事を持ち帰り家でつづきをする…ということは少なからずありました。こうした側面が強まることが考えられます。また、教材研究の時間が確保できないだけでなく、「仕事」としてしまうと勤務間インターバルに引っかかるため、「趣味です」と言い張らなければいけないなんていうことも起こり得ます。
第4章 学校の指導・運営体制の充実
第4章は教職員定数の改善、教科担任制の充実、新たな職の設置について触れられています。パブリックコメントを送りやすい項目が並びます。
「学校の先生を増やす」といっても2種類あります。例えば「少人数学級の実現」に代表されるように、クラスサイズを小さくすることで担任の先生を増やす「基礎定数の改善」。もうひとつは「審議のまとめ」が推している、毎年の予算立てによって流動的に配置人数が変化する「加配定数」によるものです。
特別部会の議論では基礎定数を見直すために必要な「乗ずる数」について大きな議論となりました。しかし、「審議のまとめ」では、慎重な姿勢に留まっています。旺盛に議論されたにも関わらず、乗ずる数の改善に舵を切らないまとめは現場思いとは言えません。

審議のまとめでは、この乗ずる数について
「乗ずる数」の引き上げは、必ずしも増加した教員定数が持ち授業時数の減少のために用いられない可能性がある。
35ページ
としています。

審議の過程で乗ずる数が議論されたことは評価すべきことです。一方で、加配定数のみを手厚くしようとする中教審の見解には問題があります。加配定数は単年度ごとに財務省・文部科学省で予算折衝の上で決定されるため、都道府県では長期的な教員数の見通しが立たず、その結果として非正規教員が増えている現状があるからです。
こうした方向性では、安心して働くことができる環境を生み出すことができないのです。
5月中旬に「審議のまとめ」が出された際に報道でも大きく扱われたように、教科担任制を充実させることにも触れられています。しかし、予算的な問題として加配措置に留まることから全国津々浦々にすべての先生が教科担任制の恩恵を受けられるかというとそうではありません。
教科担任制を推進するのは、担任の先生方に空き時間を作るためです。その効能は認めつつも、

国が一律に教師の持ち授業時数に上限を設けるのではなく、教育委員会や学校の実態に応じて、教科担任制のための定数の活用により、持ち授業時数の多い教師についてその時数を軽減する取組と併せて、校務分掌を軽減するなど、柔軟に対応していくことが望ましい
35ページ
として、国の責任を放棄し、教育委員会や各学校の工夫に委ねています。この姿勢は第3章で触れられている「働き方改革」と変わりません。
新たな職については、第5章でも触れられています。ここで触れられているのは「新たな職」の目的です。若手教師へのサポート、学校内外の連携の充実をするために中堅層の教師をこの新たな職として学校に配置するというものです。
5月21日の参議院文教科学委員会で、この「新たな職」については、職の創設であり定数としては保障しないということが文科省初等中等教育局長の答弁の中で確かめられています。これまで教職員の力合わせとして先生方が学び合い教育実践を磨きあってきたことが、業務として「若手教師のサポート」が増えることが考えられます。さらに処遇改善がセットとなることで職場の分断につながる危惧があります。
第5章 教師の処遇改善
第5章は、教職調整額に関すること、第4章で出てきた「新たな職」に対して行う処遇改善、学級担任手当の創設についてふれています。
教職調整額については、「10%以上」としている一方で、特別部会の議論の中で財源について、文科省施策全体の歳出・歳入両面の見直しにより財源を捻出する必要があるという趣旨の財務省資料が紹介されるなど暗雲が立ち込めています。
こうした中では、メリハリある給与による財源の確保が予想されます。下記の動画では桃太郎のきびだんごを例に問題点を明らかにしていますのでぜひご覧ください。
第6章 教師を取り巻く環境整備の着実な実施とフォローアップ等
第6章は今後の検討が期待される事項が挙げられています。その中に「学校教育の質の向上に向けた、次期学習指導要領における新たな学びと標準時数の在り方等」があります。
学校現場における標準時数遵守の考え方は根強いです。平成31年度には「学校における働き方改革に関する取組の徹底について」(平成 31 年3月 18 日付け 30 文科初第 1497 号文部科学事務次官通知)が発出されていて、「標準授業時数を踏まえて教育課程を編成したものの災害や流行性疾患による学級閉鎖等の不測の事態により当該授業時数を下回った場合,下回ったことのみをもって学校教育法施行規則第 51 条及び別表第1に反するとされるものではない」とされた一方で、校長先生の中には標準時数を超えることを念頭に学校経営をしている場合が今でも多くあります。
第4章で「国として持ち授業時数に上限を設けること」を否定しているうえでは、学習指導要領が標準時数を低く抑えるなど現在は行われていない施策をもつ必要があります。学習指導要領に関する意見は第6章で書くことができます。
簡単に「審議のまとめ」の章立てに合わせて、これまで動画などで説明してきたポイントをまとめました。ぜひ、パブリックコメントを送る際の参考にしてください。
パブリックコメントは7,000~10,000件の規模で集まると、担当する省庁の姿勢に変化が生まれます。ぜひ、あなたが感じている学校現場のリアル、先生としての思いをパブリックコメントに送りましょう。