スタンダードと、そろえる・あわせる

この記事は約 7 分で読めます

新年度スタートの時期に、教室では子どもたちと基本的なことを確かめ合います。「授業のはじめのチャイムがなったら、教科書とノートを出して席につきます」という昭和の時代からどの学校でも言われていた「モラル」的なことがあれば、「シャープペンシルは持ってきてはいけません」というような、学校が独自に「ルール」としてまとめているものもあります。

先生方みんなで意識したいのが「そろえる」のか「合わせる」のかということです。

学習によりよく向かう前提をつくるために、「そろえる」

今から10年くらい前、全道的に学力向上施策のひとつとして「学習規律を『そろえる』」ということが流行りました。いわゆる「学校スタンダード」とも言われました。子どもたちと「どうしてそうするのか」ということを確かめること無しに、「形を『そろえる』」ことを良しとする風潮が広がりました。

一方で、学校という場所には、集団で生活するために必要な様々なルールがあります。例えば、給食・掃除のルールなどのように学校生活の基盤となるものや、授業のはじめとおわりのチャイムのように、たくさんの人たちが生活している学校という場所で、多くの人々が生活しやすくするための指標としてのルールがあって、そこをそろえるための理解と納得の求め合いは大切なことではないでしょうか。

学校で「シャープペンシルは持ってきません」というルールがある際に、高学年を担任するとよくあるやり取りです。

先生!どうしてシャープペンシルって学校に持ってきたらいけないんですか?

どうして持ってきたいの?

鉛筆だと削らないといけないし、細い字を書けるのがいいと思うからです。

そうなんだね。確かにシャープペンシルは便利だものね。じゃあ、今学級でシャープペンシルを持ってきたらどんなことが起きると思う?

みんな喜んで持ってくると思う

そっかぁ。じゃあ、今よりもっと、みんな勉強に集中して取り組むようになるかなぁ?

それはどうだかわかんない。でも、なるんじゃ…ないかなぁ

そう? 私はそうは思っていなくてさ。ノック式のボールペンあるでしょ? あれをバラバラに分解して中のバネで遊んでいる人、うちの学級に何人かいるでしょ? 時にはバラバラにしすぎて授業中に手を真っ赤にしている人もいるくらい。
そんな状況の子たちがシャープペンシルを持ってきたとして、授業中どうなるか考えてみてほしいんだ。それでも、みんな大丈夫ってなるとしたら、あとは学級会じゃないかなぁ。「ルールをこう変えたい」って提案をしたらいいと思うよ?

こんなやりとりをすると、友達に「そんなことしちゃダメだって」と声をかけたり、学級会に発議しようと組織する労力よりも納得が勝ってしまうことがよくあるようです。

ルールだからダメ」というのではなく、「みんなが学校で気持ちよく過ごせる」って視点で「どうしてこのルールがあるんだろう」って視点をもってほしいんです。

こうして、理解と納得をしながら、よりよく学習に向かうために必要なルールを確かめ合うことがあるでしょう。学習に向かう前提となるものをそろえるために子どもと語り合うのです。

先生方の想いや価値観を「合わせる」

一方で、「合わせる」ことを求め合いたいのは、先生方の想いや価値観です。学校では次々とさまざまなことが起こります。例えば、今の時期でいえば小学校で教科書が変わって、指導者が刷新されたり、指導者用デジタル教科書がリニューアルされました。小学校の教科「外国語」のように、導入当時の授業準備の煩雑さがデジタルにより解消され、授業をしやすくなったものがあります。一方で、指導書に1時間ごとの授業の流れが掲載されるようになり、児童の実態を考えなければ授業ができる…そんな環境が整えられるようになりました。

1年生の1学期の算数を教える先生方がデジタル教科書を前に話すとしたら、きっとこんなやり取りが起こります。

デジタル教科書をタブレットで使えるようにしたら、指でシュシュと操作できますよね。

机の上も乱雑にならなくていいんじゃないですか?

そうかなぁ、いまの時期の1年生にとって大事なのは、実際に具体物を動かすっていう経験なんじゃないかと思うんだよね。

じゃあやっぱり、おはじきを使わせましょうか。

テレビにデジタル教科書を映しておくのは、わかりやすくていいかもしれないよね

こんなふうなやり取りを大切にしたいということです。大切にしたいのは集団的に子ども理解を深めながら教育活動を進める意識をもって、教育実践を語り合うことです。語り合うことで価値観が確かめられて、方針の方向性を見出すことができます。そうして、労力をかけながら「合わさっていく」ものです。

「学習の前提となるものを『そろえる』」と「大切にしたい教育の方針や方向性を『合わせる』」、このふたつを上手に組み合わせることで、目の前の子どもたちに合った教育実践を豊かに紡いでいきましょう。